仮想通貨の取引の帳簿付けを行い、新規発行された仮想通貨を報酬として受け取ることができるのがマイニングです。2018年現在、仮想通貨のマイニングは様々な国で盛んに行われています。
日本の大手企業もマイニング事業への参画を表明する企業が増えてきました。それぐらいマイニングは利益を生み出すことができるのです。
しかし、利益を生み出すことができるものは悪用される可能性もあります。今回はマイニングで国内初の立件となった、Coinhiveを取り上げて徹底的に解説していこうと思います。
ぜひ最後まで読んでみてください。
この記事でわかること
- Coinhiveとは何か
- Coinhiveのメリットとデメリット
- Coinhiveの利用により立件された事件の概要
- Coinhiveは違法なのか
- Coinhive事件からわかる今後の課題
目次
そもそも「Coinhive」とは?

仮想通貨のマイニングはパソコンを使って行われます。複雑な計算が必要なためより高性能なパソコンを使ってマイニングを行うことでより効果的に報酬を得ることができます。
それではこのCoinhiveにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
「Coinhive」のメリット
Coinhiveのメリットは、閲覧者のパソコンやスマホのCPUを使ってマイニングすることで、サイトの収益を広告ではなく、マイニングによって得ることができる点です。
これによって、サイトに貼られているたくさんの広告をなくすことができます。
また最近では、ユニセフのオーストラリア支部がCoinhiveを使い寄付を募る「The Hope page」というサイトを作っています。これは、法定通貨での寄付の代わりに、サイトを訪れた人のパソコンやスマートフォンを使い、そのCPUでマイニングを行うものです。
「Coinhive」のデメリット
上述したユニセフのホームページでは、オプトイン型という閲覧者の許可を得て、マイニングを行う方式が採用されていますが、Coinhiveを設置しているサイトによっては、閲覧者の許可なく使用している端末のCPUを勝手に使っています。
これは閲覧者の端末を不正に利用する、ウイルスやマルウェアの類と同じものだと捉える意見があります。
またサイトの閲覧者は、ウイルスソフトなどを使わなければCoinhiveが使われているサイトかどうかを判断することができないため、防ぐことが難しいといえます。
Coinhive事件の概要

2018年3月に警察は、自分のサイトにCoinhiveを使ったサイトの運営者5人を捜査し、そのうちの1人であるデザイナーの「モロ」さんという方が、不正指令電磁的記録に関する罪で略式起訴されました。
また10万円の罰金の支払命令が出されています。
Coinhive事件のおおまかな流れ
- デザイナーの「モロ」さんが自身の運営サイトにCoinhiveを導入
- 閲覧者の端末を勝手に使っていることを良くないと感じCoinhiveを削除
- 警察がCoinhiveを違法とし使ったサイト運営者5人を捜査
- その内の1人であったデザイナーの「モロ」さんに略式起訴と罰金の支払命令が下される
- クリエイターの創作活動を阻むものだとし警察の起訴に異議申し立ての裁判を行う
それぞれの見解
この事件に関しての「警察」側の見解と摘発されたデザイナーの「モロ」さんの見解をそれぞれ見てみましょう。
警察の見解
警察の見解によるとCoinhiveはサイトの閲覧者のパソコンやスマートフォンなどの電子端末を、閲覧者の許可なく利用したことを問題視し起訴しています。
要は、メールなどを開いたらウイルスが入っていて、パソコンのデータを盗まれてしまったというような悪質な迷惑メールや、ハッキングなどのサイバー攻撃のようなものとCoinhiveは同じだと、警察は捉えているといえます。
摘発されたデザイナー「モロ」さんの見解
起訴されたデザイナーの方は自身のブログで、サイトを訪れた人がたくさんの広告に閲覧を邪魔されることを、以前から疑問に感じてたため、Coinhiveを導入したとその経緯を説明しています。
また、Coinhiveのようなシステムはクリエイターの収入源に繋がることからも、今後のクリエイターのために警察の略式起訴に異議申し立ての裁判を行おうとしています。
それぞれの見解を見てみるとその違いがはっきりわかりますね。
「警察」とデザイナー「モロ」さんの見解
- 「警察」は、閲覧者の許可なく端末を使うCoinhiveを違法と捉えている
- デザイナーの「モロ」さんは、Coinhiveのようなユーザーファーストなプログラムは規制されるべきでないと考えている
この事件の問題点
このCoinhiveの事件での問題点は2つあります。以下その2つの問題点を見ていきましょう。
問題点その1
問題点の1つ目は、Coinhiveが「ウイルスやマルウェアと同種」のものであると、公的な機関である警察が捉えている点です。
上述したように、Coinhiveにはサイトから広告をなくすことができるという、ユーザーファーストなメリットがあります。
また、広告がなくなってもサイトの運営者は利益を得ることができるという、閲覧者と運営者の双方にメリットがあるものです。
摘発されたデザイナーの方も、自身のブログで警察の解釈があまりにもアバウトだったと説明しています。
このように警察の一方的な見解での起訴が行われることで、今後生まれてくる有益なプログラムやシステムの成長を阻害してしまう可能性があるのです。
問題点その2
2つ目の問題点はCoinhiveを使う倫理観です。上述したようにCoinhiveでは、「広告をなくし収益を得ることができる」という閲覧者と運営者の双方にメリットがあるプログラムです。
実際にこのデザイナーの方は、Coinhiveを警察に摘発されるよりも前にサイトから削除しています。Coinhiveを導入してから、閲覧者の許可なくその端末を使うことは良くないことだと感じ、導入を打ち切ったとやめた理由の背景をブログで説明しています。
このデザイナーの方は、悪意があってCoinhiveを導入したわけでもないにも関わらず、少なからず罪悪感を感じていたとわかります。
もしこれを悪意のある人が使った場合どうなるでしょうか。例えば、ユーザーが欲しがるような魅力的な架空のソフトを作り、そのダウンロードに何時間もかかるように設定したとします。
ユーザーはその架空のソフトのダウンロードをするために長時間ページを開きますが、実は知らないうちにCoinhiveを使ってマイニングさせられているのです。
これはあくまで例ですが、こういった使われ方もありえます。このようにCoinhiveを使う際には、その使い方の倫理観も考える必要があることがわかります。
Coinhive事件での問題点
- 警察の一方的な見解で起訴がされたため、今後のユーザーやクリエイターに有益なシステムの成長を阻む可能性がある
- 悪意のある人が使えばユーザーにとってCoinhiveは不利益なシステムにもなりえる
実際に利益は出たのか
このデザイナーの方がCoinhiveを導入していた期間は、およそ1ヶ月程度であり、その間の収益は1,000円程度でした。
Coinhiveの収益の引き出しは、5,000円からとなるので引き出すこともできず実質の収益は0円でした。それほどの収益がなかったにも関わらず、警察は違法と捉え捜査と起訴に踏み切ったことがわかります。
Coinhiveは違法なのか?

Coinhiveは違法なのか、法律面から見ていきたいと思います。
「不正指令電磁的記録に関する罪」とは?
今回略式起訴の理由となった法律は、「不正指令電磁的記録に関する罪」というものです。そもそもこれはどういった法律なのでしょうか。以下、警視庁のホームページからの抜粋になります。
「不正指令電磁的記録に関する罪」
この法律では、以下の電磁的記録、その他の記録を処罰の対象としています。
- 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
- 上記に掲げるもののほか、上記の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
引用元:警視庁「不正指令電磁的記録に関する罪」
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/cyber/law/virus.html
これだけ読むと、とてもわかりづらいと思いますので噛み砕いて説明します。
ここでいう「電磁的記録」とはいわゆる「プログラム」のことと考えてください。
要は、「他人の端末(パソコンやスマートフォンなど)に悪さをする悪質なプログラム(ウイルスやマルウェア)を使ったり作ったりした人、勝手に人の端末を操作した人は処罰しますよ」といった内容になっています。
この法律の本来の目的は、ハッカーが作ったウイルスなどによって、その人の大切な個人情報やデータなどを守るために作られたものです。
当然ですが、自分の個人情報を使われて不正に預金を引き出されたり、企業の大切なデータなどが盗まれたら大変なことですよね。
近年、急速に普及したインターネットを使ったパソコンやスマートフォンなどのIT機器を使った犯罪が増えたことによってこうした法律が作られました。
「不正指令電磁的記録に関する罪」の3つのポイント
- ウイルスを悪用したりハッキングをした人を罰するための法律
- 未然に悪い事態を防ぐためにウイルスを作った人も罰する法律
- ウイルスやハッキングで勝手に人の端末を操作したら罰する法律
Coinhiveのどこが法律に触れたのか?

さて、Coinhiveはこの「不正指令電磁的記録に関する罪」という法律のいったいどこに該当するのでしょうか。
これは上述した、
「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」
の部分にある、
「その意図に反する動作をさせるべき不正な指令」
にあたります。これは「ウイルスやハッキングで勝手に人の端末を操作したら処罰します」ということです。
上述してきたように、Coinhiveの問題点やデメリットは、Coinhiveが使われたサイトを訪れた閲覧者が、意図せぬところで自分の使っているパソコンやスマートフォンを使われ、「勝手にマイニング」をさせられてしまうところです。
この部分が法律に触れていると、警察は捉えて捜査および立件を行ったのです。
Coinhiveが違法ではないという場合の見解
上述した「不正指令電磁的記録に関する罪」は、悪意のあるウイルスからユーザーを守るために作られた法律です。
しかしこの法律は、そもそもがウイルスやハッキングに対しての罰則を定めた法律であるのに対して、Coinhiveはそもそもの作られた目的が違います。
Coinhiveは、「広告に変わる新しいサイトの収益化を目的」とした作られたプログラムです。これを悪質なウイルスやマルウェアと同様に捉えてしまう警察の見解が、正しいのかどうかは疑問が残ります。
ユーザーがとあるサイトをWebサービスで立ち上げたとして、そこで使われている収益化のプログラムがCoinhiveのようなものであれば、今後同じように摘発される事例が出てくるでしょう。
また、これは公的な権力が民間の技術開発を阻害するということになります。この事件がこれほどまでに大きく取り上げられているのは、こういったことも関係しているのです。

Coinhiveが違法なのか?この項のポイント
- 「不正指令電磁的記録に関する罪」によって閲覧者の許可なく端末を操作した点が違法に当たる
- たとえ悪意がなくても法律に触れてしまう可能性がある
- 公的な権力が民間の技術開発の自由な成長を阻んでしまう
Coinhive事件からわかった課題
最後に今回の事件からわかった課題に関して、まとめていきたいと思います。
法律の整備と正しい見解
今回の事件ではCoinhiveを使ったデザイナーの方には悪意はありませんでした。むしろサイトの収益化の取り組みの1つとして従来の広告型よりも良いと感じ導入しています。
しかし、警察の一方的な見解で起訴されてしまったことで、マイニングによる収益化という新たな取り組みができなくなってしまいました。
これは今後のWebサービス全体に悪い影響を与えてしまいます。また、適用されているのは本来は別の目的のために作られた法律です。

悪意のある使われ方を防ぐ
Coinhiveのような、システムの悪意のある使われ方を防ぐ取り組みも求められます。閲覧者が騙されて、本意ではない端末の使われ方をされるのはやはりよくないことです。

保護と成長の落とし所を見つける
ここまで、Coinhiveの概要と日本で初めて立件された事件の説明を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。Coinhiveのようなシステム自体は、将来性があり、Webサービスの今後の収益の仕組みを変えていくでしょう。
また、Webサービスだけでなくそのほかの様々な分野での応用が可能と言えます。不特定多数のCPUのエネルギーを集めて収益化できるという発想は分散型の仮想通貨の根本的理念にも通ずるとても素晴らしいものです。
これにより豊かな社会を作っていく大きな可能性を持っているといえます。
しかし、それと同時にCoinhiveのようなシステムを使う側の倫理観の醸成や、どこからどこまでが違法なのかというはっきりとした法律の整備が必要です。
また、これはCoinhiveだけでなく仮想通貨の業界全体にいえることでしょう。この先どのような取り組みがされていくのか皆さんもぜひ注目してみてくださいね。